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ワンクリック・コラム「おしゃべりなレンズたち」各方面のフォトグラファーたちが、レンズ・カメラ・写真をめぐる、それぞれの考え・思いを自由に語る、エッセイ風コラム 第6回  

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目の錬金術が生んだ、作品「R」の秘密

今回は、ユニークな映像世界を切り拓く写真家・中里和人さんの登場です
昭和30年代から40年代にかけて、三重県の田舎町で生まれ育った。松阪と伊勢の両市に挟まれた小さな町で、なだらかな古墳のような里山に囲まれた多気という町である。

里山にはぐねぐねした農道や林道が走り、その曲がり道が子供時代の遊び場でもあった。小学校の帰り道、同級生に「今日は近道から帰ろか!」と声を掛けると、隣り村の山道に入って道草をよくした。ただ、本当はものすごい遠廻りの道で、近道とは名ばかりの秘密の探検路であった。その山道も冬にはすぐに暗くなった。つづら折れの道が薄暗くなるや、ざわめく森の気配が背後からやって来て、曲がり道の先で神隠しに逢うかもしれないという恐怖心に襲われた。それがカーブした道に対する原体験だったのかもしれない。

写真:山梨・芦川 写真:山梨・芦川

山梨・芦川 2003年4月

ここ数年、日本各地を巡って、曲がり道の前で立止まることが増えていった。この国はどこの道を走っても必ず曲がり道にぶつかってしまう。山の多い国土が日本中の道を曲げてしまったのかもしれないが、そのおかげでというか、美しく不思議な曲がり道に出会うことができた。旅に出て森や海沿いの旧道や林道に入って行くと景色は入り組み始め、必ずカーブした道がやってくる。その前で佇んでいると、曲がり道の先の見えない別世界に行ってしまうことがある。

その瞬間、懐かしい記憶のスイッチが入り、幼い日に道草をした曲がり道の景色が甦ってくるのだった。そんな日本各地で撮りためたカーブした道をセレクトしていた時、偶然二本のカーブがドッキングして、新たなペアの世界となって現われてきた。まったく時空の異なる曲り道が重なり合った時に不思議な視覚的飛躍が生じ、目の錬金術が発生したのだった。

この感覚こそが、子供時代も今も変わらず、曲がって見えない先に連れて行かれる不安感や解放感に繋がるトリップ感ではないかと思った。「R」とはカーブした道の道路標識に使われるRadius(半径)の頭文字であり、合わせ鏡のように結びついた、現実離れした別世界がReborn(生まれ変わり)するRでもある。

そんな日本各地の曲り道を一冊の写真集「R」(冬青社)にまとめた。仕掛け絵本をめくるように写真集の曲り道を辿っていくと、現実の風景の裂け目、消えた道の果てから、異界への入口が手招きしているのだった。

中里和人 中里 和人(なかざと かつひと)
写真家。1956年、三重県生まれ。2006年「日本カメラ」カラースライドの部コンテスト審査員。東京造形大学助教授。主な写真集に、「湾岸原野」(六興出版)、「小屋の肖像」(メディアファクトリー)、「キリコの街」(ワイズ出版)、「路地」(清流出版)、「東亰」(木土水)、「R」(冬青社)、など多数。2003年「キリコの街」で第5回写真の会賞受賞、2005年「路地」でさがみはら写真新人奨励賞受賞。