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ワンクリック・コラム「おしゃべりなレンズたち」各方面のフォトグラファーたちが、レンズ・カメラ・写真をめぐる、それぞれの考え・思いを自由に語る、エッセイ風コラム 第35回  

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アザラシの赤ちゃんが教えてくれること

今回は、世界の大自然や動物写真をテーマに活躍中の井村淳さんです。
天使の寝顔
天使の寝顔
毎年3月初旬にタテゴトアザラシの赤ちゃんに会いに行く。白くてフワフワした、他にたとえようのないかわいい生きものである。寝そべってカメラを構えていると、まん丸の大きな目をうるうるさせてこちらに近づいてくるのですから。しかし、そのかわいいアザラシに会いに行くことが今、深刻な問題に直面している。

タテゴトアザラシの赤ちゃんには、カナダの東にある大きなセントローレンス湾という海上で会える。毎年冬にこの湾内で流氷ができる。2月の冷え込みで流氷は分厚く頑丈な陸のように成長する。その流氷の上でアザラシは出産し2週間の子育てをする。だが、地球温暖化のせいか、その大事な氷の成長が年々悪くなり、仕上がりが薄くなってきたことを実感している。

タテゴトアザラシの赤ちゃんの撮影は、観光客と一緒に流氷の上にヘリコプターで下してもらい、カメラバッグを肩から提げて流氷の上を歩きながらお気に入りのアザラシを探す。氷が薄くなると、気温が氷点下にもかかわらず変な汗をかきながら氷上を歩かなければならない。

氷の上でゴロゴロ
氷の上でゴロゴロ
ママと泳ぎの練習
ママと泳ぎの練習
ことに僕には、重大な問題である。なぜなら僕は自他ともに認める、人並み以上の巨漢であるため、氷の厚さには敏感なのである。この一歩を踏み出したとたん、もし氷が耐えきれなかったら、カメラともども冷たい海に浸かってしまう!…と、そんな光景が頭をよぎる。

冗談はさておき、氷が薄くなってきたことでアザラシの子育てに大きな影響が出ている。数年前には氷が薄いために例年より早く氷が溶けてしまい、成長前の赤ちゃんが溺れ、壊滅状態に陥ったこともある。これ以上に温暖化が進むと、タテゴトアザラシの出産する場所がうばわれてしまうことになる。それは、タテゴトアザラシの絶滅に直結する。

氷を必要として生きてきた動物たちがいま、一番深刻な状況にあると僕は感じた。そこで考えた。自分には何ができるだろう。二酸化炭素削減。スーパー袋をなるべく使わない。エアコンの温度を夏は高め、冬は低めに設定する。そして、なるべく息をしない…これは冗談だが(笑)。僕一人がそんなことをしてもきっと何にも変わらないかもしれない。こんな努力は、無駄なことだろうか。しかし、やるべきである。多くの人がその意識を持つことが大事なのだ。

そのためにも僕は野生動物たちを撮影し、そのかけがえのない命の大切さを伝えていきたい。野生動物を撮りながら、そんな新たな意気込みが芽生えたのであった。

井村 淳 井村 淳(いむら じゅん)
1971年生まれ。横浜市在住。日本写真芸術専門学校卒業。風景写真家竹内敏信氏の助手を経てフリー。『野生』を大きなテーマとし、アフリカを中心に世界の野生動物と日本の四季の自然風景を求めて活動。(社)日本写真家協会(JPS)会員。
ホームページ=http://home.q07.itscom.net/jsworld/INDEX.html