ワンクリック・コラム おしゃべりなレンズたち 各方面のフォトグラファーたちが、レンズ・カメラ・写真をめぐる、それぞれの考え・思いを自由に語る、エッセイ風コラム

木村 正博
木村 正博

1948年、神奈川県箱根町生まれ。カメラメーカー・写真雑誌勤務を経てフリーとなる。NHK学園、各メーカー写真教室講師を務め、ていねいな教え方に定評がある。日本カメラ等カメラ専門誌に執筆中。新宿御苑フォトコンテスト、全日本福祉写真協会フォトコンテスト、日本野鳥保護連盟公募カレンダー審査員。著書に「新宿御苑 撮影・散策ガイド」など。日本写真協会、日本自然科学写真協会会員。

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「習い性となった“寄って写せ”の格言」写真・文/木村 正博 今回は、新宿御苑撮影セミナーの指導などでもおなじみの木村正博さんの登場です

レンゲツツジ/17-270mm F3.5-5.6で撮影

レンゲツツジ/17-270mm F3.5-5.6で撮影

私が写真の魅力に取りつかれたのは、中学生のころ夏休みで泊っていた叔父の家で初めて暗室作業を体験したことからでした。引き伸ばし機で露光をかけた印画紙を現像液に入れると、濃いオレンジ色の安全光の下の印画紙にジワッと画像が浮き上がる不思議さに見とれ、いつかは自分のカメラと引き伸ばし機を持ちたいと思いながらなかなか果たせず、写真学校に入ってようやく中古の35ミリ一眼レフと交換レンズを手に入れ、プリントはもっぱら学校の暗室を利用していました。

当時の学校がそうだったのか、自分が特別な(?)学生だったからなのかは分かりませんが、1年の後半になると学校へ行くのは暗室を使う時だけになり、知り合った編集者から仕事をもらっては都内の学園紛争や万博の取材に出かけていました。その仕事の中で言われた言葉で今でも覚えているのが、「広角で引いて写してどうすんだ。寄れるだけ寄って写せ」というものでした。闘争現場での撮影が多く、初めのうちは恐る恐るでしたが、そのうち画面の迫力の違いに気付き、以後はできるだけ被写体に寄って写すのが習い性となりました。

その後この世界から離れ、カメラメーカーの社員として二十余年を過ごしたのちにフリーのフォトグラファーとなりましたが、被写体に向かうと、まずはともかくできるだけ写したいものに近寄り、そこで焦点距離や撮影距離を微調整し最良のポイントを探してシャッターを切るのが習慣になっています。

乗鞍山麓の名瀑、三本滝の一つ/SP17-50mm F2.8で撮影

乗鞍山麓の名瀑、三本滝の一つ/SP17-50mm F2.8で撮影

私が会社員になった頃のズームレンズは大きく重く、最短撮影距離も遠くて被写体に寄ることができませんでしたが、改良が重ねられることで今では単焦点レンズを超える最短撮影距離を持ったものも登場しています。こうなるとズームレンズの持つ魅力には抗しがたく、今では単焦点の常用レンズはマクロのみとなり、近所の散歩には標準系ズーム1本。あらたまった撮影でも広角系と標準系、それに望遠系と、60mmか90mmマクロのいずれかを持参するようになりました。

現在お気に入りのレンズはSP17-50mm F2.8とSP60mm F2マクロで、この2本で多くの作品をものにしています。特に17-50の広角側は、35ミリ換算で私の好きな24mmの画角に近く、最短撮影距離も0.29mと短いのがありがたく、明るい開放値のお陰でファインダーも見やすく重宝しています。

アマチュアの方の撮影を見ていると、いい被写体にレンズを向けたものの撮影距離が遠く、思ったような大きさに被写体を捉えられないで首を傾げているのを目にすることがあります。その原因は撮影距離の基準がどこにあるかを知らないためです。カメラによっては省かれているものもありますが、上級機の多くは距離基準マーク(※注)が設けられていて、そこから被写体までの距離が実際の撮影距離になります。このようなちょっとした知識を使いこなして、最短撮影距離を活かした表現を楽しんでほしいものです。

「ぶらり撮り・東京808」撮影会にて

(※注)
カメラに設けられた距離基準マーク。撮影距離の基準はここからになりますが、このマークのないものは、ファインダーアイピースを基準とするといいでしょう。